江戸川区への重度障害者の在宅介護給付に関する要請書と、区からの回答について

2018312日、江戸川区介護保障弁護団として、江戸川区長宛に江戸川区内の重度障害者の在宅介護給付に関する要請書

を提出しました。これに対し、514日付で江戸川区より回答書が届きました。また、本件について529日に江戸川区と話し合いの場を持ちました。主な要請事項と回答の要旨は以下のとおりです。

 

1 弁護士の権利擁護活動への妨害の中止

l  弁護団は、依頼者からの代理人として委任状を示した上で個人情報開示請求をしたにもかかわらず、江戸川区は「依頼者本人の意思確認が必要」と主張し、本人との面談を設定するまでの期間、弁護団は代理活動ができなくなりました。このため、こうした権利擁護活動への妨害行為をしないよう、江戸川区に強く求めました。

l  江戸川区は、「個人情報保護の観点からご本人の意思確認を厳格に行う」とし、本人の自書が難しく委任状等の作成が難しい場合は、引き続き面会による意思確認を行う必要があるとの認識を示しました。

l  しかし、江戸川区個人情報保護条例(平成6年条例第1号)第19条の2は「本人の委任を受けた者は本人に代わって」個人情報開示請求が出来ると定めており、本人からの適法な委任状が提出されているにも関わらず、依頼者が障害者である(重度の知的障害や言語障害がある)という理由により、弁護士への委任意思を区が本人に逐一確認するという運用は、障害を理由とした直接差別として、差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)に違反している疑いがあります。当会は、このような運用を改めるよう引き続き求めていきます。

 

2 支給決定基準による支給量上限(530時間)を撤廃すること

l  弁護団は、江戸川区が障害支援区分ごとに「上限時間」を定め機械的運用をしている点について、ひとりひとりのニーズを適切に調査し支給決定をするよう求めました。

l  江戸川区は、既存の支給決定基準」は「上限基準として取り扱っているものではなく」「個別事情に応じて支給決定を行っている」と回答しました。当会としては、江戸川区が本回答のとおり、個別ニーズに応じた支給決定を行うよう、引き続き強く求めていきます。

 

3 「気管切開していない者には夜間の介護給付を認めない」という運用を改めること

=必要な夜間介護の支給を認めること

l  弁護団は、江戸川区が、人工呼吸器の管理など医療的ケアを受けていない場合は夜間介護を認めないとしている運用について、改めるよう求めました。

l  江戸川区は、上記の運用はしておらず(弁護団の指摘した江戸川区作成の「サービス内容判断基準表」は、あくまでも初任者向けにポイントを説明するための参考資料に過ぎない)、「夜間の見守り介護については、個別事情に応じて、その必要性を勘案して支給決定を行っています」と回答しました。また、529日に実施した障害者福祉課と当会の話し合いの場においても、当会のメンバーである四肢麻痺の男性が夜間に自力では寝返りを打つことは難しい点を問われた同課の職員は、「自力で出来ない方の場合介助するのが一般的かと」として、介護の必要性があるとの認識を示しました。

 

4 必要な二人介護を認めること

l  弁護団は、江戸川区が二人介護を認める前提として「124時間の支給量が認められる必要がある」との独自の見解に基づき、二人介護の必要性を検討すらしていない運用を改めるよう求めました。

l  江戸川区は、514日付の文書では本件について回答しなかったため、529日の話し合いの場で確認をしました。弁護団は、二人介護の支給決定は1日の総支給時間が24間未満でも認められている例はいくらでもあるとの説明をし、江戸川区との間で支給量の総時間数の認定と二人介助の必要性は連動しないことを確認しました。

 

5 家族に介護を強要させる理不尽の禁止

l  弁護団は、江戸川区が本来必要な介護時間数から家族が介護を担当することが可能な時間数を一方的に算定して控除し、支給量を決定している点について、運用を改めるよう求めました。

l  江戸川区は、障害者総合支援法第22条及び同法施行規則第12条において「当該障害者の介護を行う者の状況」を勘案して支給決定するという箇所を引用し、「介護を行うご家族の個別の状況も勘案して支給決定している」とし、家族介護を前提とした支給決定は法に基づく運用であるかのような回答をしています。

l  しかし、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長(平成19323日付障発第0323002号「介護給付費等の支給決定等について」)通知及び平成3041日付介護給付費等に係る支給決定事務等について(事務処理要領)60頁では、「当該事項は、介護を行う者がいる場合に訪問介護等の居宅生活支援費の支給を行わないという趣旨ではない」と明記しています。そして、本事項は主に「短期入所」向けの勘案事項であり、主な介護者が疾病その他の理由により居宅で介護を受けることが一時的に困難になったことが要件となっているため、との説明があります。

l  当会では、上記を踏まえ、改めて家族介護を前提とした支給決定を改めるよう求めます。

 

6 介護保険給付(訪問入浴・訪問リハビリ)との併給を認めること

l  弁護団は、江戸川区が必要な介護時間数から機械的に介護保険給付分を控除し支給量を決定している運用を改めるよう求めました。

l  江戸川区は、「他法の給付関係を慎重に精査し、その必要性を勘案して支給決定を行います」と回答することに留めています。当会としては、障害者総合支援法第7条において、「自立支援給付に相当するものを受け、または利用することができるとき」に限り自立支援給付を行わない旨定めていることから、性質や内容が異なる他法のサービス給付に係る時間数を機械的に控除することは改めるべきだと考えます。

l  なお、2018年3月14日、岡山地方裁判所は、介護保険と障害者総合支援法(同事件当時は障害者自立支援法)は本来その目的と対象者が異なることを踏まえ、介護保険の自己負担が厳しい障害者が介護保険を申請しないことには合理的理由があるとして、介護保険申請を強要した岡山市に対して慰謝料100万円の賠償を命じするとともに介護保険の自己負担金の返還を命じています(「賃金と社会保障第1707号7頁」・最高裁HPにも掲載・但し、市が控訴)。

   江戸川区においても、介護保険法と障害者総合支援法には根本的な違いがあることを踏まえ、適切な対応を求めます。

 

7 生活保護他人介護加算の不当な打ち切りを撤回すること

l  弁護団は、障害者施策によるホームヘルプサービスのみで必要な介護を受けられているかどうかを精査しないまま、江戸川区が他人介護料を打ち切った事例があることを問題視し、慎重な調査を求めました。

l  江戸川区は、「介護需要が認められているか否かについて総合的に検討」すると回答しました。当会は、引き続き安易に他人介護加算を打ち切らないよう求めます。

 

8 介護給付の申請を妨害し、委縮させる言動をしないこと

l  弁護団は、江戸川区障害福祉課の特定の職員から、区民が申請時に委縮するような言動(「何も理由が書いてないじゃないか!認められない」等)を受けているとの報告を踏まえ、行政手続法は市民の申請を「受理する・しない」という権限を認めていないことや、これらの言動が公務員倫理違反に当たることを指摘し、改善を求めました。

 

l  江戸川区からは、申請があった際には法令を遵守し手続きすること、丁寧に対応する旨の回答がありました。当会は、職員による不適切な言動が繰り返されることがないよう、具体的な再発防止策等を求めていきます。